かつて、西夏にとって強大な外敵であったツォグ族。
内外より蝕まれ、西夏の滅亡が見えてきた頃、"番大学院"の院長はその文字を失わせないために己の娘を、ツォグ族に嫁入りさせ、「玉音同」を強大なツォグ族に埋めることを考えた。
その娘こそがハラバルの母である"玉花"。
しかし、その目論みもさらなる強大な部族、モンゴル族の出現により…。
執拗に西夏の文字を焼き滅ぼそうとするモンゴルに再び脅かされる西夏文字。
ユルール達が目指すのは"宗"の西の端"成都"。
" …宗国では、ひとつ王朝が滅んでも敗者の歴史、文化は葬られず—— "" 勝者によって書き継がれる習いだと聞く。 "関係ないだろと、出会ってもいないじゃないかという須藤に
" 出会ったよ。 " " あの日、忘れないかたちで出会った。 "再び語り始めるユルール。
ポルドゥと共にツォグのゲルから抜け出したユルールは塩州のイスラム商人隊商宿にて成都へ向かう隊商を探します。
そこではモンゴルの兵隊や物資ばかりを狙う、ただただ殺戮を楽しむかの様な手口の賊の噂が。。
モンゴル語で"悪霊"を意味する"シュトヘル"と呼ばれる賊。
更には、とあるモンゴルの武将が自らの手柄を示すために城壁に描いた虎の絵に、獣の臓腑を塗りつけた人物が…。
そのうえ、汚された虎の絵の前にモンゴルでは神とされる狼の頭がおかれていた…と。
ユルールたちが同行を依頼した隊商の主はアルファルドという男性。
そして、彼が別に取引をしていた人物こそが…
狼の毛皮を纏う女。
"シュトヘル"成都に向かい出発した彼らでしたが、その行く先にモンゴル兵を見つけたシュトヘルは
" 弱まる鼓動が聞こえる…流す血が尽き、モンゴルの心臓が止まるまで。 "" 噛み殺し続けてやる。 " " わたしは、きさまらに憑いた悪霊だ。 "10戸隊を瞬く間に斬殺。。
アルファルドはシュトヘルの"誰のものでもない、暴力の風—"その、理不尽なほどに圧倒的な"残虐さ"に魅せられてしまっているようです。
しかし、シュトヘルのモンゴル兵斬殺に巻き込まれ、崖から転落しかける。
危険を省みずアルファルドを助けようとするユルール。
そこに戻ってきたシュトヘルは"虎の絵の男"の情報と交換にユルールを助けますが…。
" …その虎は、おれの兄だ "ユルールを殺そうとしたシュトヘルでしたが、虎の男に対する"餌"として生かしておけば良いというアルファルドの提案を受け入れる。
塩田の町についた彼らは、モンゴルの将軍ベクテルの守る関所を抜けなくてはならない。
塩田の町で働かされているのは西夏の民。
子供を守るために、戦うことなくモンゴルにくだったという彼ら。
しかし、女達は残らず攫われたが抵抗の咎で殺されることもなかったと語ります。
泣き出す、宿の子供に母に抱かれる自分自身を重ね合わせ、子守唄を奏でてやるユルール。
その音色を外で聞いていたシュトヘル。
怨念の様に彼女のにまとわりつく仲間たちの幻影。
" 子守歌か… ああ… おまえは… " " おまえだけは… 俺達を… 忘れないでくれ… "すでにもう、呪縛といってもいいですね。
逗留中、宿の主人の手伝いをしていてユルールでしたが、突然主人はもともとは西夏軍で仲間だった野盗に襲われます。
その野盗に子供を殺されそうになり、代わりにユルールを差し出そうとした主人。
やってきたシュトヘルによってユルールは救われ、更に主人を殺そうとするシュトヘルから主人を庇います。
それにもかかわらず、彼らをモンゴル軍に売り飛ばす主人。
殺される瞬間、野盗は主人に問いかけます。
" 守るものがある奴は何やっても、どう生きてもいいのかっ… "" それでいいなら—— それ、で、いいなら…… "そのまま、息を引き取る野盗。
一方、ツォグ族はポルドゥとユルールとを殺すことを決定。
しかし、
" 弟はまだ子供だ。 "と、一族を制しハラバルが自らユルールの追跡に赴く。
" だが、もし戻らぬというなら—— " " 俺が始末をつける。 "その頃ベクテルがハラバルを配下にしていたことを知ったシュトヘルは単身ベクテルの元へ…。
" 何かを捨てることで——残る何かが進化するのだ。 "" わかるな…?"悪霊"と成り果てるために、何かを捨てたおまえなのだろう。 "しかし、シュトヘルが捨てたものは…
" 間近にいても鉄と砂埃の匂いだけ、人間の匂いさえしない… "" 何も残ってなんかいないんだ。 "ベクテルを噛み殺したシュトヘル。。
" 見えたか?わたしのなかに何か。 " " 聴こえたか?わたしのなかから何か。 "ベクテルの弱まっていく鼓動に耳を傾けるシュトヘル。
その鼓動が止まったとき、彼女はベクテルの死体を池に突き落とす。。
" 摑まえたのはわたしのほうだったな。 "このおかげで、容易に関所を抜けることができた一行。
夜ー
ユルールと対話するシュトヘル。
モンゴル人のユルールが同胞を裏切って大夏の文字を救うのかと問うシュトヘルに…
" おれは何人だから、何族なのに、というのはよくわからない "と、逆に何故直接の仇ではない他のモンゴル人までも殺すのかととうユルール。
" わたしだけは仲間を、忘れるわけにはいかないのに… "" ——思い出すのは見分けもつかなくなった顔だ。 "" わたしが死ねばそれも消える。 "" それまではただ噛み殺し続けるだけだ。わたし達の肉でおまえを養ったものどもも——いずれはおまえも。 "" 虎の男…… 虎の男だけは必ずこの手で殺し骸の腐るまで見届ける。 決めたことだ。 " そんなシュトヘルの話を聞き何かを思ったユルールは紙に母の名を書く。
そのことを知り、シュトヘルはユルールに問う。
" 賀蘭金、と書けるか。 "と。更に、他の仲間の名も書いてもらうシュトヘル。
その仲間の名の書かれた紙を受け取った彼女は…
" …あしたわたしが死んでも… "" あしたわたしが死んでも、消えないのか…? " " わたしの仲間の名前は…この文字が、覚えていてくれるのか。……ユルール。 "" ——それが… …それが、文字なのか。 "初めてユルールの名を読んだ彼女。。
その後徐々にユルールに心を開き、文字を習うシュトヘル。
シュトヘルを諭すユルール。
その言葉は己自身への言葉でも…。
" 何か許せないことがあって、認めたくないことがあって、では どうであればよかったんだ?きみは…おれは… "" そのためにこれから何か…何ができるのか、——できなくても、考えることを捨てたら子供と一緒だ。 "" きみも、おれもだ。 "" 何も提示せずに殺したり壊したりするだけなら、やっていることはきみの憎む相手と同じだ。 "刀を突きつけられてもなおひるまないユルール。
" 殺すとか壊すじゃなくて、伝えるとかつなぐとか、そう言う生き方だってあるはずだ。 "ユルールのいうことはきれいごとだと言いつつも刀をおさめるシュトヘル。
その状況を目の当たりにしたアルファルドは…
ユルールとの交流によって、徐々にシュトヘルの"美しさ"が消えてしまうと、ユルールの手に毒刃を…。
" 本当にアンタが好きになりそうだった。 "" でも坊っちゃま、アンタは恐ろしい。 " " アンタは——アンタは"悪霊"を殺してしまう。 "ん〜、今回も考えさせられることばかりですね。
"文字が覚えおいてくれる"。
普段我々は当たり前の様に使っている文字ですが…文字のなかった文化の人からすれば"文字"というのは革命的というか…。
自分が死んでからも、大切な物事を文字として残しておくことができる。
自分の大切な思いを託していける"文字"という存在のありがたさとそれの与える安心感。
今の世の中に生きている我々のは普段考え及びもしないものですね。
そして、シュトヘルのなにも残っていないからこその"美しさ"。
アルファルドのいうことも、少しですが(笑)わからないでもない。
確かに、すべてを捨てたシュトヘルは何にも囚われることなくただ復讐のためだけに命を燃やしています。
強烈な命の炎の瞬きは確かに美しい。
その上、仲間の死という"闇"を抱えていますからね。
影のある女性は美しい。
しかし、彼女は仲間の死という"呪縛"とも言える"幻影"に捕われているわけですからね。
やはり、なにかに縛られてるとね。。
それから、塩田での宿の主人ですね。
そもそも、女達がみんな連れ去られているにもかかわらずね。。
まあ、それでも子供を守るためなんでしょうが…。
じゃあ、奥さんは??という疑問。。
それに"守るものがある奴は何やっても、どう生きてもいいのかっ…"という野盗の問い。。
答えが出る様な問いではありませんが、自分はこういう人間にはなりたくはないと思わされてしまいますね。
最後に、なんと言ってもユルールの決意。
10歳の少年とは思えない堅い意志。
本当に、彼に会えたことはシュトヘルにとって幸運だったでしょうね。
やはりユルールの存在はシュトヘルに取っての"祝福"なのかも知れませんね。
とにかく、第2巻もすばらしく読み応えのありましたね。
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